比翼は万里を翔る 金椛国春秋⑩(篠原悠希)の感想/ブログ

今回は、比翼は万里を翔る 金椛国春秋(篠原悠希)の概要と感想をご紹介します。











本の概要
| タイトル | 比翼は万里を翔る 金椛国春秋 |
| 著者 | 篠原悠希 |
| 発売日 | 2021年02月25日 |
あらすじと物語の紹介
明々とついに結婚、のはずが大波乱!? 傑作中華ファンタジー堂々完結!
遊圭の陰ながらの活躍もあり、金椛軍は朔露の大軍を押し返し、戦況は小康状態を保っていた。
自ら敵国に残った玄月の安否を気がかりに思いつつも、遊圭は延び延びになっていた明々との祝言の準備に駆け回る。
だが断れない筋からの縁談が遊圭に舞い込んで……。
そんな中、皇帝陽元の親征に金椛軍の士気は昂揚し、朔露との最後の戦いが始まる!
それぞれが選んだ道の先に待つものとは。
傑作中華ファンタジー、圧巻の完結巻!!
『比翼は万里を翔る』は、金椛国で生き抜く少年を描く中華風ファンタジー『金椛国春秋』シリーズの第10巻。
読書記録
- 読了日:2025年11月11日(火)
感想
全10巻の金椛国春秋シリーズ、ここに完結。
冒頭から遊圭と明々の結婚に暗雲が立ち込め、挙げ句明々は実家に帰ってしまうという事件が勃発。
前巻のラストでいよいよ遊圭と明々が結婚できる!というように見えていたところ、なかなかうまくいかないものですね…。
それも、横槍を入れてきたのは前巻で遊圭とともに戦った皇族の沙洋王。
泰然と構えているような印象だったお人ですが、そんなことを考えていたとは。
読み進めていくと、どちらかというと横槍、というよりは周りがその状況を受けて勝手に忖度していただけ…というのが分かりますが、いずれにせよ政略結婚が当たり前の世界って…とため息をつきたくなります。
そんな状況の遊圭、前巻までは彼の成長を感じられる落ち着いた堂々とした言動が多かったのに対し、友人の橘さんと尤仁の前でも弱音を隠そうともしません。
なるほど、成長したのも大きく変わったのも事実ではありつつ、明々のことが絡むと一気に冷静ではいられなくなる…といった感じなのでしょう。遊圭らしい。
さてそんな折、皇帝・陽元は慶城への親征を決め、遊圭は官位を賜って同行することに。
そこでようやく、玄月の無事が確認できます。
良かった玄月、無事だった!
”身元がバレたら終わり”というのは、かつて第一巻~第三巻まで遊圭が置かれていた立場と同じ。状況としては全く異なるものの、なんだかあの頃を懐かしく思い出すような描写があり、ああ物語もここまで来たんだな…思わされます。
まあ、当時の遊圭より玄月のほうが見ていて安心感はあるんですけどね…。笑
一方遊圭・陽元は直接采配を振るい、戦は大詰めに。
軍師としての才能も持つ遊圭の作戦で戦況を決めにかかりますが、かつての敵の兄と再会したことで遊圭は命の危険に。
尤仁の行動によりなんとか一命を取り留めますが、これは過去一危なかったのでは。
あとからその裏で糸を引いていたのが毎度おなじみ玄月であることも分かって、なんというか相変わらずというか…と思わずにはいられませんでしたね。笑
最終的には玄月も無事帰還し、遊圭は明々と祝言を挙げ、物語は幕を下ろします。
長く続いたシリーズがここに堂々完結。
とはいえ、朔露との戦争も終わったわけではないですし、新しい生活を始める遊圭や玄月もまだまだこれから波乱がありそうです。
シリーズ本編としては今作がラストですが、外伝として二冊出ているので、こちらも合わせて楽しもうかな~と思います!
印象に残ったポイント
長い長い恋愛物語
最終巻を読んで、金椛国春秋シリーズは、全巻通して金椛国という国で生きる遊圭や玄月、陽元たちの人生の一部を切り取り、その中で繰り広げられる悲喜こもごもや国のあり方、陰謀、駆け引き、冒険、戦争まで多くの物語を描いていましたが、その実一番骨子にあったのは恋愛物語だったのか、と気付かされます。
恋愛物語、というとなんだか軽く聞こえますが…
遊圭という一人の人間が、命の危機に見舞われたところから、なんとか自分の足場を確保して、道を固めて、数々の出会いと冒険を繰り広げて心を鍛え、そして明々と結ばれるまでを描く。
これがシリーズ本編の骨子でした。
要は、単に恋愛物語と言っても、そこにあるのは惚れた腫れたの駆け引きやそれぞれの思いだけではなく、その途上でそれぞれが経験したすべてが絡み合ってくるものだということ。
そういった道の先の一つのゴールが、一人の女性と添うことで、何ら不足は無いのだということ。
シリーズを通してそういったことを見せてくれていたのかな、と思います。
物語は遊圭と明々だけではありません。
玄月と小月、陽元と玲玉。橘さんや尤仁も相手を見つけ、添う決意を固めています。
それぞれが辿った道、それぞれが経験したこと。
それらすべてが、それぞれが身を寄せるという最後の結末に繋がっていったのだなと思うと、恋愛物語ほど重い物語は無いのかもしれません。
個人的には、物語の最後の最後、陽元と玲玉との会話が印象的でした。
紹や游が、ひとりの女にこだわるのを見ていて、そういうのも良いかもしれんという気がしてきた。
そなたとは、来世でそのようにできるといいな
皇族として生まれ、後宮に大量の女性を囲い、天子としての役目を果たすのが当たり前だった陽元。
物語でもずっとそれを当たり前として受け入れていた陽元が、最後の最後に玲玉にこんな言葉をかけるとは。
これ以上ない愛の言葉だな…と、読んでいて心がぽっとなりました。
若干展開が早く駆け足気味で物語が進む部分もありましたが、登場人物それぞれが心を寄せるのに十分魅力的で、飽きずに楽しめるシリーズでした。
また遊圭たちに会いたくなったら、戻ってきたいと思います。









