臥竜は漠北に起つ 金椛国春秋⑨(篠原悠希)の感想/ブログ

今回は、臥竜は漠北に起つ 金椛国春秋(篠原悠希)の概要と感想をご紹介します。











本の概要
| タイトル | 臥竜は漠北に起つ 金椛国春秋 |
| 著者 | 篠原悠希 |
| 発売日 | 2020年09月24日 |
あらすじと物語の紹介
今いちばん続きが気になる大ヒット中華ファンタジー、激動の急展開!
祖国と大切な人々を守るために、何を為すべきか。
遊圭(ゆうけい)は朔露(さくろ)軍との戦いの前線に舞い戻り、極秘の人質奪還作戦を成功させ金椛(ジンファ)軍を勝利に導く。
しかし負傷のため敵地に残った玄月(げんげつ)は、そのまま消息を絶ってしまう。
生死すら確認できない玄月の行方を追って、遊圭はふたたび敵陣深く潜入することに。
一方、意外な人物との再会により敵の後宮に囚われた玄月は、ある悲壮な決意を固めていく。
傑作中華ファンタジー、怒濤の急展開!
『臥竜は漠北に起つ』は、金椛国で生き抜く少年を描く中華風ファンタジー『金椛国春秋』シリーズの第9巻。
読書記録
- 読了日:2025年11月9日(日)
感想
敵方に残されたままの玄月。
ただその扱いは”囚われている”…というよりは、ヤスミン姫に気に入られて手元に置かれている、という雰囲気が近く。もちろん玄月が正体を隠しているからなのだけども。
遊圭はそんな玄月を確実に救うべく、上官を欺きつつも自ら争いの場に繰り出していきます。
遊圭、かつてはあんなに人を騙したり欺いたりするときに「私にはそんな真似は出来ない」と足踏みしていたのに、気がつけば堂々と動けるようになっている。
第一巻から比べると、大きく変わっているのがよく分かります。成長したなあ…。
と、まあ外野たる読者の目にはそんなふうに移りましたが、遊圭本人は全くそんなことはない様子。笑
「緊張で足が震えっぱなしだった」というセリフもある通り、心中は穏やかではないんでしょうね…。
そんな遊圭ですが、橘さんと親友の尤仁と一緒にいるときは、より堂々と大胆に振る舞えているように見えます。
今やふたりとも成り行きは違えど、年齢も近くほぼ友人と言っても間違いないような間柄。
そういう友人がそばにいる、ということは想像以上に本人に力を与えるのかもしれません。
さて、そんなこんなでなんとか遊圭と玄月は再会を遂げますが、玄月側には逃げる気がなく、あまつさえ敵首相と刺し違える覚悟を決めているとのこと。
玄月…。前巻までにあった小月との出来事でそこまで思い詰めていたとは。遊圭の見立ては正しかったようです。
最終的に玄月を思いとどまらせることは出来たものの、折悪く金椛国側の急襲があり、玄月は身重のヤスミン姫を救うべく戦火の中へ。そのまま再び行方をくらませてしまうのでした。
こちらとしては小月側の想いを散々見ているわけなので、もはや異国に属するヤスミン姫なんて置いておいて帰っておいでよ玄月!と強く思うシーンではあったのですが…、ただまあこれも玄月らしい行動といえばそうなんだろうなあと。
結局玄月と小月は再会することが出来ないまま、物語は幕を閉じました。
長く続いた金椛国春秋シリーズは次回が最終巻。
主人公遊圭の行く末も気になりますが、段々と感情移入が止まらなくなってきた玄月の今後についても気になるとこと。
最終巻も楽しみにしたいと思います。
印象に残ったポイント
玄月の思い
物語の序盤。法盤上にラシードたちを送り出し、一人暗い洞窟で雪の中身を休めていた玄月。
遊圭が持たせた麻勃を吸って、おそらくシリーズで初めてその内心を赤裸々に吐露しつづけるシーンが個人的に非常に印象に残りました。
特に、後半。宦官となるための手術を受ける直前の回想部分。
貧しさから逃れるための自宮であれ、死罪を免れるための宮刑であれ、わずかでもためらいや恐怖が表情や声音に出れば、手術は中止される。
強制されて宦官になったのではない。
自ら選んだのだ。
天命を受けたものに生涯寄り添う、伴天の星となる道を。
シビアすぎる。
作中で何度も何度も語られていることではありますが、そもそも玄月は自らが罪を犯したわけではなく、親戚の罪の連座という形で罰を被っただけの立場。
名誉ある死か、不名誉な生か、の究極の二択を突きつけられて、周りからの要請もあって後者を取った…というより取らざるを得なかっただけの人物です。
遊圭たちが心配していたように、自暴自棄になったり、皇帝を引きずり下ろそうとしても十分すぎる動機があると私も思います。
散々作中ではその不安を煽るような描写がありましたし、玄月自身の性格からか疑わしい部分も沢山ありました。
それが何だ。「自ら選んだのだ」と来たか。
このシーンで、今まで物語を通して右に左に振れていた玄月の人物像が一つに固まりました。
悔しいことも、悲しいことも、それこそどうでもいいやとすべてを捨てたいと思ったことも、常人には数え切れないほどあったであろう人物。
それらをすべて受けてなお、「自ら選んだのだ」というセリフが出てくるとは。
玄月という人物に胸を打たれるには十分すぎるシーンでした。
きっとこれまで、玄月を疑わしいと見せていたすべてのシーンは、完全にミスリードだったんでしょうね…。うまいことやられました。←
前巻での遊圭の決意にも我が身を省みる部分がありましたが、今回の玄月の覚悟も胸に留めて生きていきたいと思いました。











