野良犬の値段(百田尚樹)の感想/ブログ | 犯人VS警察VSマスコミ、三つ巴の心理戦が面白い

今回は、野良犬の値段(百田尚樹)の概要と感想をご紹介します。
本の概要
| タイトル | 野良犬の値段(上・下) |
| 著者 | 百田尚樹 |
| 発売日 | 2020年12月24日 |
あらすじと物語の紹介
突如ネット上に現れた謎の「誘拐サイト」。誘拐されたのは、
身寄りのない6人のみすぼらしいホームレスだった。
果たしてこれは事件なのか、イタズラなのか。半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に「誘拐サイト」はなんと、
被害者たちとは何の関係もない、大手メディアに身代金を要求する。最初は愉快犯の可能性も疑われていた「誘拐サイト」だったが、ある事件をきっかけに、
一気に凶悪な姿を見せる。犯人の要求はエスカレートし、
新聞社やテレビ局を恐怖に陥れる。果たして犯人の本当の狙いは何なのか?誘拐犯、警察、メディアによる三つ巴の駆け引きの末、事件は驚くべき結末を迎える。
息もつかせぬ、怒涛の一気読みミステリー!
読書記録
- 読了日:2026年2月8日
感想
誘拐されたのはホームレス。そして身代金を要求されたのは、マスコミ各社。
通常ならば絶対に成立しない、あり得ない誘拐事件。
でもそれが、ネットという大きな劇場を舞台にすることで、次第に話題となり、広く大衆に広がっていく。
そしてある時、一人の人質の姿が生首だけの姿となって発見されたことにより、一気に世間の風向きが変わる…。
…というのが、上巻のあらすじ。
事件に携わる警察、マスコミ、そしてネットという劇場を大きく広げることに貢献する一般人たちの目線で物語が展開していき、彼らの目線で見る事件がどんどんと展開していきます。
最初は「何だこの事件は」と少し引いた目で見ていた読者としての私も、次第に事件が展開を見せるにつれ、引き込まれていくのを感じましたね…!
そして下巻に入り、物語は一気に展開。
なんと下巻の冒頭から、”犯人”の正体、そしてその目的・動機、これまでにやってきたことの”裏”が全て描かれるんですよね。
ミステリーは得てして「誰が犯人か」、そして奇妙な事件であればあるほど「その目的はなにか」を解き明かすところに山場があるものが多いですが、まさか下巻の冒頭からそれが明かされるとは。驚きでした。
そして以降、犯人たちの姿がくっきり見えるようになってから物語が一気に面白くなります。
これまでは奇妙な事件の真相を追求する目線で見ていたこちらですが、ここから先は、犯人 VS 警察 VS マスコミの三つ巴の心理戦をまざまざと見せつけられるんですよね。
気づけばどんどん犯人サイドに感情移入してしまい、その心理戦のうまさに脱帽させられました。
小説のラスト、鈴村元刑事と犯人たちがやり取りをするシーンがあるのですが、このシーンもまた良かったですね。
ミステリーらしい謎解き要素、そしてそれぞれの心理戦をたっぷり堪能できる、良い小説でした。
印象に残ったポイント
ホームレスは他人事ではない
犯人であるホームレスたち。
彼らは決して彼ら自身に100%責任があったからホームレスになった訳ではなく、誰でも陥りがちなちょっとした落とし穴に嵌ってしまい、以降坂道を転がり落ちるようにたどり着いた先がホームレスだった…というものです。
その”落とし穴”は、事情を紐解けばどうにもこうにもやりきれない、どうしようもないような事情ばかり。
そういう背景まではっきりと描かれているからこそ、その後の展開でマスコミや警察と闘う彼らの姿に共感し、次第に応援するようになるのだろうな、と思います。
マスコミの功罪
ホームレスたちが今作のような身代金狂言誘拐事件を巻き起こした理由。
その一つは、マスコミに対して戦いを仕掛けることでした。
SNS等ではよく言われるようになったことではありますが、”事実を人々に伝える”という役割を持つマスコミには多くの功罪があります。
もちろん、マスコミが取り上げることで始めて知り、意識付けられることや世界が変わっていくことも多くあります。これが”功”の部分。
でも、そのスピード性を重視したり、マスコミも1企業である以上利益=視聴率や購読率を意識したりすることで、取材対象が被害を被ることも、これまた多くあるのだと思います。
どれほど崇高な目的を掲げていようが、この罪からは逃れられないのだろうなと思いつつ、それを問いかけることを忘れてはいけない。
そういった意味でこの物語は広く読まれるべきだと思います。
まあ、あとがきでも触れられていた通り、映像化には相当な壁がありそうですけどね……
総合評価
読み始めたら止まらないタイプの小説!
特に下巻、犯人たちの正体と目的が明かされてからの心理戦が非常に面白い。

