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望み(雫井 脩介)の感想/ブログ

望み(雫井 脩介)の感想/ブログ

こんにちは、ゆーです。

今回は、望み(雫井 脩介)の概要と感想をご紹介します。

 

本の概要

タイトル望み
著者雫井 脩介
発売日2019年04月24日

 

 

あらすじと物語の紹介

息子は殺人犯か被害者か――。究極の一気読みミステリ。


年頃の息子と娘を育てながら平穏に暮らしていた石川一登・貴代美夫妻。9月のある週末、息子の規士が帰宅せず連絡が途絶えてしまう。警察に相談した矢先、規士の友人が殺害されたと聞き、一登は胸騒ぎを覚える。逃走中の少年は二人だが、行方不明者は三人。息子は犯人か、それとも……。規士の無実を望む一登と、犯人でも生きていて欲しいと願う貴代美。揺れ動く父と母の思い――。心に深く突き刺さる衝撃のサスペンスミステリー。

 

読書記録

  • 読了日:2025年11月24日(月)

一気読み系のサスペンス。気がついたら読み終わっていた…。

 

感想

家族から犯罪者が出るか、あるいは被害者が出るか。

この究極の問いを突きつけられた家族の心情を丁寧に描く物語で、想像以上の重さに唸らずにいられませんでした…。

 

物語としては非常にシンプルで、遺体が発見された事件に関連していると見られた少年の家族が葛藤する数日間の姿を描くのみ。

ただそこで描かれる家族は絶えず揺れ動き、葛藤し、悩み続ける。

 

家族が自分たちを裏切り、加害者であっても生きているほうが良いのか。あるいは家族の期待や本人の両親を貫いて、無言の帰宅を果たすほうが良いのか。

加害者となってしまえば、残された家族の生活も未来も全て閉ざされてしまう。これまで築き上げてきた信頼も、仕事も、何もかも無くなる。でもこの場合、家族の命は残る。

被害者となってしまうと、残された家族の生活や未来は救われる。これまで通りの生活を送れるどころか、世間からは同情される立場になる。でもこの場合、家族の命は二度と帰らない。

 

母親、父親、妹。それぞれの立場でそれぞれなりに葛藤する姿は見ているだけでも苦しく、私だったらどう考えるだろう…とずっと思いながら読んでいました。

恐ろしいのが、どれほど揺れ動いて葛藤して悩んでどちらの結論を出そうとも、そこに救いは無く、ただただ事実が横たわるだけ、ということ。

どんなに悩んでも、結局は加害者か被害者かというどちらも受け入れがいたい究極の二択のどちらかでしかなくって、それも事実としてはすでに存在していて、あとはそれが分かる時を待つのみ…。

 

家族が加害者であってもいいから生きていてくれ、と願う心。

本当なら生きていてほしいが、家族の心を信じて加害者となるくらいなら被害者であってほしい、と願う心。

そのどちらも間違っていなくって、だからどうしようもなく救いがないな…と思わずにはいられない物語でした。

 

最終的に規士くんは被害者として、無言の帰宅を果たします。

やっと待ち望んでいた事実を手に入れても、結局そこにあるのは救いではなく、また新たな絶望なわけです。

 

月並みな感想にはなってしまいますが、何があっても”人が人の命を奪う”ということは、決してあってはならないのだなと強く思わされる作品でした。

 

印象に残ったポイント

貴代美と母のやり取り

息子が事件の加害者かもしれない。

揺れ動く母・貴代美と、病気がちながらも自宅までやってきてくれた貴代美の母とのやり取りがとても印象的でした。

 

特に、貴代美の母からの言葉を受けて、貴代美が発したこの部分。

 

母に許されたという思いが、貴代美の中でこびりつくようにして巣食っていたあらゆる不安を押し流していくようだった。お腹を痛めて産み、毎日毎日ご飯を作って体を洗い、病気になれば付きっきりで看病し、人生のいろはを教えて大切に大切に育ててきた自分の子どもが、この先不幸になるとしても、母はそれを許してくれるという。

地べたに這いつくばり、砂を噛むような生き方をしても、母はそれを許してくれるという。

ならば、自分は何でもできると思った。規士がどんなことをしたのであろうと、それを許してやれないわけはないと思った。

 

人間誰しも、「幸せにならなくてはならない」というある種の呪いのようなものを背負っているのだと気付かされます。

普段は意識していないけれど、確かに私だって、親から生まれて大切に育てられてきたから今がある。

だから心の何処かで、そんな親に報いるためには、私自身が幸せに”ならないといけない”とずっと強く思っている。

 

普通に生きているときはそれで良いし、それが生きる道標になったりもします。

ただ、こういう究極の状況になると、まさしくそれが”呪い”になっちゃうんですよね…。

 

その”呪い”があるがゆえに貴代美はずっと悩んでいたわけですが、それをその母本人が打ち砕いてくれるとは。

このことがどれほど貴代美にとって救いになったことだろう…と思います。

 

子の幸せを願うのが親であれば、その子の幸せのために不幸になることを許すのも親なのでしょう。

まだまだそこまで心が熟していない私にとっては難しいとすら思えるやり取りですが、肝に銘じておきたいと思いました。

 

総合評価

4

読み進めるほどに登場人物の心情を痛いほど感じることができる物語。「人の命を大切にする」という普遍的なことを伝えるのに、これほどわかりやすい作品もないのではと思います。私が教師だったら課題図書に推薦したい。

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