神と王<亡国の書>(浅葉なつ)の感想/ブログ

今回は、神と王<亡国の書>(浅葉なつ)の概要と感想をご紹介します。
本の概要
タイトル | 神と王<亡国の書> |
著者 | 浅葉なつ |
発売日 | 2021年12月07日(文庫版) |
あらすじと物語の紹介
大ヒット『神様の御用人』の著者・浅葉なつの新作は、
『古事記』からインスピレーションを得て生まれた
「神」と「世界の謎」をめぐる壮大な物語。構想に4年をかけ、緻密に作りこんだ設定、個性的なキャラクターたちが、
誰も知らない魅惑の世界へと誘ってくれます。
彼らの冒険を追ううち、いつしか読者は「命を司る者の正体」に迫ることに――?
古い歴史を持つ国・弓可留(ゆっかる)に住み、父の跡を継いで歴史学者として日々研究に励んでいた慈空(じくう)を主人公に展開される物語。
本作を第一作に、以降シリーズが続いています。
読書記録
- 読了日:2025年10月14日(火)
- こういうファンタジー大好物です
感想
ジャンルとしては異世界ファンタジー、ということになるであろうこの物語。
ですが、タイトル通り物語の主題は”神と王”について。
どことなく普段我々が生きる世界と重なるところも当然あって、それ故に色々と考えさせられるお話です。
なにせ、冒頭からなかなかの重い展開。
主人公の住む国、主人公の周囲の人々が全て滅ぼされ、何もかもなくした状態でのスタート、なんですよね。
序盤は「なるほどそういう物語なのか」と淡々と読み進めていたのですが、徐々に慈空のバックグラウンドを理解し、彼に感情移入していく中で、その過去がのしかかってきます。
物語は基本慈空を主人公に進んでいきますが、その途中途中で、彼を取り巻く新たな環境に住む人々を中心に、物語の舞台となる世界の在り方について描かれていきます。
御柱、闇戸、杜人、種、不知魚、祝子…。
苦手な人はこのあたりでギブアップかもしれませんが、個人的にはこういう世界観は大好物!笑
異世界ならではの概念、常識が、読み進めることで徐々に身になっていく、自然になっていくこの感覚が大好きなんですよね…。
なんというか、世界には知らないだけでこういう場所もあるかもしれない、と思えるのが良いんだろうなと思っています。だからこの手の物語はやめられない!
それに、言葉や常識、概念は違えど、そこで描かれる問題は現実世界に照らしてもかなりリアルなんですよね。
特に差別の問題については分かりやすく描かれていると思います。
そして後半の展開は非常に面白かった。
「羅の文書」を取り返そうとする慈空と、沈寧国の状況が入り乱れて巻き起こされる展開は息つく間もないほど目まぐるしく、気がついたら物語を読み終えてしまっていました。
大筋の目的、”スメラを探す”という意味ではまだまだ先は長そうで、この先もずーっと続いていく雰囲気を感じますが、それはそれとして一冊で一つの物語が起承転結区切りよく閉められているのが良いなと思います。
ぜひこの先も追いかけたいシリーズです。
印象に残ったポイント
神と王について
タイトルそのままではありますが。笑
物語としては人間模様を中心に目まぐるしく展開されますが、一貫して描かれているのは「神とは何か、王とは何か」というテーマです。
現代日本に生きる身としては、身近なようで実はあまり現実感を持っていないこの命題。
そりゃもちろん、初詣には神社に赴くし、旅先で神社を見つけたらひとまず参拝する。人生の節目節目で神社で祈祷をするのも、普通の営みとしてあります。
あるんですが、じゃあ神に対する姿勢はどうなのか、というと”人生の拠り所であり神のために生きる”というようなものではなく、どちらかというと”ちょっとお願いを叶えてくれたり、加護してくれたりする存在”くらいの軽いものなんじゃないかな…、と思います。
なんなら、”神”という存在自体眉唾ものだと感じている人も少なくないように思います。
この「現代日本における神の在り方」については、著者の前作シリーズ『神様の御用人』で深く深く書かれていたのでここではあえて触れませんが、要は『神と王』で描かれている世界との大きな隔たりとしてあるのは確かだと感じます。
更には、”王”という存在もかなり怪しい。
日本にはもちろん国のトップ、という存在はいますが、いわゆる「世襲制で絶対的な権力を持つ」王という存在は、現代日本には実質的には存在しません。
そういった状況の今の日本という世界に対して刊行されている本作。
その意味を考えさせられずにはいられませんでした。
なにせ著者の浅場なつさんは、前作シリーズ『神様の御用人』で”神”についてずっと語ってきていた方。(御用人シリーズは全部読んでいます)
その御用人シリーズを経て、改めて本作を出しているということを知っている身としては、”神”という存在について改めて考えざるを得ないわけです。
本作はまだまだシリーズの第一作。
この命題についてはこれからも何度も考える機会がありそうだな、というのが楽しみでもあります。